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大阪地方裁判所 昭和35年(ワ)1372号 判決

原告 株式会社高山洋紙店

右代表者代表取締役 高山今造

原告 桟敷哲三

被告 国

右代表者法務大臣 田中伊三次

右指定代理人 上杉晴一郎

〈ほか二名〉

被告 金正夫

右訴訟代理人弁護士 西本剛

被告 玄悌善

主文

被告らは各自、原告株式会社高山洋紙店に対し金五四、九九二円、原告桟敷哲三に対し金七六、八七三円および右各金員に対する被告国ならびに被告玄悌善は昭和三五年四月七日から、被告金正夫は同年七月二五日からそれぞれ完済まで年五分の割合による金員を支払え。

原告らのその余の請求を棄却する。

訴訟費用を三分し、その二を原告らの負担とし、その一を被告らの負担とする。

この判決は、原告ら勝訴部分に限り、原告株式会社高山洋紙店において金一八、〇〇〇円、原告桟敷哲三において金二五、〇〇〇円の担保を供するときは、それぞれ仮りに執行することができる。

事実

原告両名は、「被告らは連帯して、原告株式会社高山洋紙店に対し金一九四、八九八円、原告桟敷哲三に対し金二七二、四七〇円および右各金員に対する訴状送達の日の翌日から完済まで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決ならびに仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、次のとおり述べた。

一  原告株式会社高山洋紙店(以下原告会社という。)は、訴外玄明煥に対する債務名義として、玄明煥に対し原告会社に金一九四、三八八円および内金五六、二六四円に対する昭和三一年六月二一日から、内金一三八、一二四円に対する同年七月二一日から各完済まで年六分の割合による金員の支払いを命じた大阪地方裁判所昭和三一年(ワ)第三二一号事件の確定判決を有する。

原告桟敷は、玄明煥に対する債務名義として、玄明煥に対し原告桟敷に金二六五、七一三円およびこれに対する昭和三二年一月二六日から完済まで年六分の割合による金員の支払いを命じた大阪地方裁判所昭和三二年(ワ)第四七号事件の確定判決を有する。

二  原告桟敷は、玄明煥を債務者とする大阪地方裁判所昭和三一年(ヨ)第二〇五八号事件の仮差押決定にもとづき、大阪地方裁判所執行吏(当時の職名・以下同じ)二反田正三の執行吏代理今西義充に仮差押を委任し、同執行吏代理は、昭和三一年九月二二日大阪市生野区中川町二丁目五番地所在の玄明煥の工場において同人占有中の別紙目録(1)の物件につき仮差押えをした。

原告会社は、玄明煥に対する前記確定判決にもとづき、大阪地方裁判所執行吏家治浩造に強制執行を委任し、同執行吏は、昭和三一年一二月一三日前記玄明煥の工場において同人占有中の別紙目録(1)、(2)の物件を差押えた((1)の物件については、前記仮差押を強制執行に移行)。

右強制執行に対して、訴外金元協が右差押物件は自己の所有に属すると主張して、昭和三一年一二月一九日第三者異議の訴を提起し(大阪地方裁判所昭和三一年(ワ)第五三五七号事件)、同月二一日強制執行停止決定を得た。

原告桟敷は、玄明煥に対する前記確定判決にもとづき、大阪地方裁判所執行吏二反田正三の執行吏代理である西田捨三に強制執行を委任し、同執行吏代理は、昭和三二年一一月一九日前記玄明煥の工場において同人占有中の別紙目録(1)、(2)の物件につきさきに家治執行吏がなした前記差押に照査手続をし、更に別紙目録(3)ないし(12)の物件につき追加差押えをした。

右強制執行に対しても、訴外金元協が所有権を主張して第三者異議の訴を提起し、強制執行停止決定を得た。

訴外丸福商事株式会社は、玄明煥に対する公正証書の執行力ある正本にもとづいて昭和三二年一二月五日大阪地方裁判所執行吏向井量平に委任して別紙目録(1)ないし(2)の物件につき、前記差押に照査手続をし、更に同目録(13)の物件につき追加差押えをした。

なお、金元協の提起した前記第三者異議訴訟は、約二年後二件とも休止満了により訴の取下げとみなされて終了した。

三  ところが、前記原告会社の差押より後で原告桟敷の差押ならびに照査手続より前である昭和三二年四月一五日、被告金正夫は、被告玄悌善に対する公正証書の執行力ある正本にもとづいて、前記二反田執行吏の執行吏代理である西田捨三に強制執行を委任し、前記玄明煥の工場において、別紙目録(1)ないし(13)の物件を被告玄の所有であると称してその差押を求め、西田執行吏代理はこれに応じて、右物件のうちバイス二個・金床一個・工具類その他部分四〇個を除くその余の物件全部を差押えた。そして、二反田執行吏は、昭和三三年九月一日右差押物件全部を他の差押物件とともに競売に付し、訴外井上正二に競落させた。しかも右競売に付された物件の差押時の見積価格は総計六〇六、二〇〇円であるのに、競売価額は全部で僅か七七、二〇〇円であった。

四  被告金の被告玄に対する右強制執行は、被告金、被告玄および玄明煥らが共謀して、原告らのした玄明煥に対する前記強制執行を免れその実効を無からしめる目的で、被告玄の所有でもなく占有もしていない別紙目録記載の物件を被告玄の所有し占有するものであると偽って、西田執行吏代理および二反田執行吏をして差押え・競売をさせたものである。

西田執行吏代理は、別紙目録記載の物件がすでに原告らの玄明煥に対する債権のために差押えられていること、被告玄はこれを占有していないことを知りながら、または過失によってこれを知らずに、被告金の被告玄に対する債権のために二重の差押えをして、これを競売されるに至らしめ、二反田執行吏は、このことを知りながら、または過失によってこれを知らないで、右差押物件を被告金の被告玄に対する債権のために競売したものである。

五  別紙目録記載の物件のうちバイス二個・金床一個・工具類その他部品四〇個を除くその余の物件が以上のような経過で被告金の被告玄に対する差押えにもとづき競売されてしまったため、原告らは、差押えた別紙目録記載の物件の競売を家治執行吏に求め、同執行吏が昭和三五年一月一三日その競売をしようとしたが、バイス二個、金床一個、工具類その他部品四〇個を競売して売得金一、五〇〇円を得たのみで、それ以外の差押物件の競売は不能に帰した。そのため、原告らは冒頭記載の確定判決にもとづく玄明煥に対する債権およびそれに附随する債権を回収することができなくなり、それぞれ債権額と同額の損害をこうむった。

原告会社のこうむった損害の額は、確定判決による債権の元本一九四、三八八円、これに対する昭和三一年一一月二〇日までの遅延損害金三、九〇〇円、立替金三四〇円、執行費用一、五〇〇円、合計二〇〇、一二八円から、弁済を受けた五、二三〇円を控除した金額、すなわち金一九四、八九八円である。

原告桟敷のこうむった損害の額は、確定判決による債権の元本二六五、七一三円、これに対する昭和三二年一〇月一〇日までの遅延損害金一一、〇九四円、立替金一、一一五円、執行費用一、五〇〇円、合計二七九、四二二円から、弁済を受けた六、九五二円を控除した金額、すなわち金二七二、四七〇円である。

よって原告らは、被告国に対しては国家賠償法一条にもとづき、被告金、同玄に対しては民法七〇九条にもとづき、被告金、同玄および二反田執行吏、西田執行吏代理の共同不法行為によって原告両名がこうむった右各損害額の連帯支払いを求める。

被告国指定代理人は、「原告らの請求を棄却する。訴訟費用は原告らの負担とする。」との判決を求め、認否として次のとおり述べた。

請求原因一項および二項の事実は認める。同三項の事実のうち、西田執行吏代理が被告金の被告玄に対する強制執行として差押えた物件が、玄明煥の工場内にある別紙目録記載の物件であるとの事実を否認し、その他の事実は認める。玄明煥の工場の近くに別に被告玄占有の工場があり、西田執行吏代理が被告玄に対する強制執行として差押えた物件は、被告玄の工場内にあった物件であって、玄明煥の工場内にあった別紙目録記載の物件とは全然別の物件である。

請求原因四項の事実は否認する。かりに西田執行吏代理が被告玄に対する強制執行として差押えた物件が別紙目録記載の物件と同一のものであり、これを二反田執行吏が競売したものとしても、西田執行吏代理および二反田執行吏に原告ら主張のような故意または過失はない。

請求原因五項の事実のうち、家治執行吏が昭和三五年一月一三日別紙目録記載の物件のうちバイス二個、金床一個、工具類その他部品四〇個を一、五〇〇円で競売したことは認めるが、その他の事実は否認する。

被告金訴訟代理人は、「原告の請求を棄却する。」との判決を求めた。

被告玄は、郵便送達による期日の呼出しを受けたが、本件口頭弁論期日に出頭せず、答弁書その他の準備書面も提出しない。

≪立証省略≫

理由

一、被告玄は、民訴法一四〇条により、原告ら主張の請求原因事実を全部自白したものとみなす。ただし、本件における不法行為と損害との因果関係および損害額の認定は法律問題であって自白の対象とならないから、後記第五、七項のとおりである。

二  請求原因一項および二項の事実は、原告らと被告国との間では争いがなく、被告金は明らかに争わないから、これを自白したものとみなす。

被告金が、昭和三二年四月一五日被告玄に対する公正証書の執行力ある正本にもとづいて二反田執行吏の代理である西田執行吏代理に強制執行を委任し、同執行吏代理が機械類を差押えたこと、二反田執行吏が昭和三三年九月一日右差押物件を競売に付し、訴外井上正二に競落させたこと、右差押物件につき西田執行吏代理が差押時に評価した見積価額が合計六〇六、二〇〇円であり、その競売価額が七七、二〇〇円であったこと、以上の事実は、原告らと被告国との間では争いがなく、被告金は明らかに争わないから、これを自白したものとみなす。

≪証拠省略≫によると、請求原因二項記載の債務者玄明煥に対する各差押えがなされた工場と、前記被告金から被告玄に対する強制執行として西田執行吏代理が機械類の差押えをした工場とは、同一の工場であって、西田執行吏代理が被告玄を債務者として差押えた機械類のうちには、別紙目録記載の物件のうちバイス二個、金床一個、工具類その他部品四〇個を除くその余の物件全部が含まれていることが認められる。

≪証拠判断省略≫

三  被告金の被告玄に対する強制執行として差押えられた物件の競落価額が、その差押時の西田執行吏代理の評価した見積価額に比して極端に低い事実(≪証拠省略≫によると、右差押物件三一点のうち競落された物件は二七点で、その二七点の差押時における見積価額は合計四七六、二〇〇円であることが認められる。)、原告会社が玄明煥を債務者としてした差押えおよび原告桟敷が玄明煥を債務者としてした照査手続ならびに追加差押えに対し、いずれも金元協が差押物件の所有権を主張して第三者異議の訴を提起し、強制執行の停止決定を得、右訴訟は約二年後(すなわち、被告金の被告玄に対する強制執行につき競売手続が終了して後)いわゆる休止満了になり終了している事実、被告金が被告玄に対する強制執行として別紙目録記載の物件を差押えたことに対しては、金元協が第三者異議の訴を提起したことを認めうる証拠は何もないこと、以上の事実に、≪証拠省略≫および弁論の全趣旨を総合すると、被告金が被告玄に対する強制執行としてした別紙目録記載の物件を含む物件に対する差押えならびに競売は、玄明煥、被告金、被告玄および金元協らが共謀して、原告会社のした玄明煥に対する強制執行の続行を妨害し、玄明煥に対する他の債権者からの強制執行を免れる目的でしたもので、被告金の被告玄に対する差押えの当時真実別紙目録記載の物件を所有し占有していたのは玄明煥であり、原告玄は単にこれを占有しているかの如く仮装していたものであると認めることができる。右認定を左右するに足りる証拠はない。

四  家治執行吏が昭和三五年一月一三日原告らのために、別紙目録記載の物件のうちバイス二個、金床一個、工具類その他部品四〇個を合計一、五〇〇円で競売したことは、原告らと被告国との間では争いがなく、被告金は明らかに争わないから、これを自白したものとみなす。そして≪証拠省略≫によると、家治執行吏が、前同日原告らおよび丸福商事株式会社のために差押、照査手続、追加差押をされた別紙目録記載の物件を競売に付すべく、保管場所である玄明煥の工場に出向いたところ、出会人から、バイス二個、金床一個、工具類その他部品四〇個を除くその余の物件は全部前記の被告金から被告玄に対する差押えにもとづきすでに二反田執行吏によって競売されたとして、その競売調書を提示されたため、右物件を原告らのために競売に付することができなかったことが認められる。

五  以上認定の事実によれば、別紙目録記載の物件のうち、被告金から被告玄に対する差押えを受けるより以前に原告会社のために差押えられた(1)、(2)の物件については、原告会社およびその後照査手続により差押に参加した原告桟敷ならびに丸福商事株式会社は、前記被告金、同玄らの妨害行為がなければ、当然に右(1)、(2)の物件を競売に付しその売得金から弁済を受けることができたのに、右妨害行為のためその弁済を得られず、その分だけそれぞれ損害をこうむったものということができる。したがって、被告金、同玄は、原告らに対し右損害を賠償すべき義務を負うものである。

別紙目録記載の物件のうち(3)ないし(13)の物件については、被告金から被告玄に対する差押えがなされた後に原告桟敷および丸福商事株式会社から玄明煥を債務者として、それぞれ追加差押えがなされたものである。したがって、被告金が右(3)ないし(13)の物件を差押えた当時は、原告らおよび丸福商事株式会社が右物件の競売売得金から弁済を受けるかどうかということは全く未定の状態にあったものである。しかも、被告金から被告玄に対する右物件の差押えが、被告玄の真実占有していない物件についてなされたものであることは、さきに認定したとおりであるが、債務者の占有していないものを執行吏が誤って債務者の占有するものと認定して差押えても、その差押えは違法ではあるが、当然無効ではなく、執行方法の異議等法定の手続によって取消されるまでは、差押の効力は持続するものである。そして、すでに差押えられた物件を重ねて差押えることは許されないから(民訴法五八六条)、前記(3)ないし(13)の物件について原告桟敷および丸福商事株式会社から玄明煥を債務者としてなされた追加差押えは、本来差押えることのできないものについてなされた差押えであるといわねばならない。

したがって、右物件についてなされた被告金のための競売それ自体によって直ちに原告らが右物件から弁済を受けえたはずのところそれを受けられなくなって損害をこうむったということはできない。被告金、同玄らの前記仮装執行によって債務者玄明煥の責任財産が皆無となるか、または残存してもその残存物から原告らの債権全額の満足を得られなくなったというときにはじめて、被告金、同玄らの右不法行為によって原告らが満足を得られなくなった債権額相当の損害をこうむったものということができるのである。しかるに本件においては、右のような因果関係の存在を認めることのできる主張および証拠は何もない。

したがって、前記(3)ないし(13)の物件については、それが被告金のために競売されたことによって損害をこうむったとの原告らの主張は理由がない。

六  次に、被告国に対する請求について判断する。

≪証拠省略≫によると、西田執行吏代理が昭和三二年四月一五日被告金から被告玄に対する差押えとして、別紙目録記載の物件を差押えた際、被告玄は債務者として右差押調書に署名したこと、右差押調書には、被告玄または第三者から苦情が出た旨記載されていないこと(債務者または第三者から、差押物件は債務者の所有または占有に属しない等の申出があったときは、通常差押調書にその旨記載される。)が認められる。執行吏は、差押えようとする物が債務者の占有する物であるかどうかは、単にその物に対する支配の外観だけから判断すれば足りるのであって、それ以上の実体的審査をする権限も義務もないから、西田執行吏代理が別紙目録記載の物件を被告玄の占有するものであると認定して差押えたことについては、その時点では西田執行吏代理に過失があるということはできない。右差押えにつき西田執行吏代理に過失があることを認めることのできる証拠はない。

次に、西田執行吏代理は、昭和三二年一一月一九日原告桟敷のために玄明煥を債務者として、別紙目録記載の物件のうち(1)、(2)の物件につきさきに家治執行吏によってなされた債権者を原告会社、債務者を玄明煥とする差押えに照査手続をし、さらに(3)ないし(12)の物件を追加差押えした。右照査ならびに追加差押えは、同じ執行吏代理のした前記被告金から被告玄に対する差押えの約七ヶ月後に、右差押えと同一の場所で同一の物件についてなされたものであり、しかも≪証拠省略≫によると、西田執行吏代理は、右照査ならびに追加差押えに際し、物件所在の工場には被告玄の標札が掲げられ、玄明煥の妻が物件は他人の物である旨述べたにもかかわらず、あえて玄明煥の占有する物と認定してこれを実行したものであることが認められる。右事実によれば、西田執行吏代理は、右時点において別紙目録記載の物件のうち(1)、(2)の物件が、さきに被告金のために被告玄を債務者として差押えたより以前に、すでに原告会社のために玄明煥を債務者として差押えられていた事実を知ったものと認めることができる。≪証拠判断省略≫

すでに差押えられている物件に対し重ねて差押えがなされた場合、後の差押えは無効と解すべきである。したがって、西田執行吏代理は、右(1)、(2)の物件につき自己が被告金のために被告玄を債務者としてした差押えは無効であることを知り、または知り得たはずで、当然その差押えにもとづく強制執行の続行を防止すべく、差押記録にその旨明記するとか、後刻右差押えにもとづき競売手続を担当することが予想される二反田執行吏にその旨告げる等適宜の措置を講ずべき義務があったものというべきである。しかるに、≪証拠省略≫によると、西田執行吏代理は右注意義務を怠たり何らの措置も講じなかったため、右(1)、(2)の物件は二反田執行吏によって被告金のために競売されてしまったことが認められる。そして、右競売により原告らが損害をこうむったものと認めるべきことは、さきに述べたとおりである。

よって、被告国は国家賠償法にもとづき、原告らのこうむった右損害を賠償すべき義務がある。

次に、別紙目録記載の物件のうち(3)ないし(13)の物件については、西田執行吏代理が被告金のために被告玄を債務者としてした差押えが債務者の占有の認定を誤ったものではあるが、当然には無効ではなく、法定の手続によって取消されるまでは差押えの効力が維持され、むしろ同執行吏代理のした原告らのための右物件に対する追加差押えがなすべからざる物件に対してなされた差押えと解すべきことは、さきに述べた。したがって、被告金のための右差押えにもとづく強制執行の続行を執行吏自ら停止または取消すべき法的根拠はなく、もとより西田執行吏代理にそのような措置を講ずべき義務もない。右(3)ないし(13)の物件が被告金のために競売されたことにつき、西田執行吏代理には何らの過失もないというべきである。

別紙目録記載の物件が西田執行吏代理によって被告金のために差押えられたことおよび二反田執行吏によって被告金のために競売に付されたことにつき、二反田執行吏に、債務者の占有の誤認または二重差押えの事実について故意または過失のあったことを認めることのできる証拠はない。

よって、(3)ないし(13)の物件に関する原告らの被告国に対する主張は理由がない。

七  そこで最後に別紙目録記載の物件のうち(1)、(2)の物件が被告金のために競売されたことによって、原告らのこうむった損害の額について判断する。

≪証拠省略≫によると、家治執行吏によって原告らのために別紙目録記載の物件について競売手続がなされた当時、玄明煥に対して、原告会社は一九四、八九八円、原告桟敷は二七二、四七〇円、丸福商事株式会社は六四、二九〇円の債権をそれぞれ有したことが認められる。

≪証拠省略≫によると、(1)、(2)の物件が原告会社のために差押えられた時の家治執行吏による右物件の見積価額は合計一五万円であることが認められる。動産の強制競売における競落価額は、差押時の見積価額より高いことも低いこともあるが、一応右見積価額が標準となるものであるから、本件の原告らの損害を算定するに当って、右(1)、(2)の物件が原告らのために競売されていたならば右見積価額をもって競落されたものと仮定しても差支えないと解する。

そして、動産の強制競売において配当を受ける債権者が競合する場合は、売得金の分配はまず債権者の協議に任され、協議が整わないときは裁判所の配当手続にゆだねられるのであるが(民訴法五九三条、六二六条)、前者の場合は、特別の事情のない限り各債権者の債権額に応じて按分することをもって協議が整うものと推定すべきであり、後者の場合は債権額に応じて按分した金額が配当されるものである。したがって、本件において原告らがそれぞれこうむった損害額とは、前記(1)、(2)の物件の見積価額一五万円を、原告両名および丸福商事株式会社の前記各債権額に応じて按分した金額に当るものと解するのが相当である。

そうすると、原告会社のこうむった損害額は金五四、九九二円、原告桟敷のこうむった損害額は金七六、八七三円となる。

八  よって、原告らの本訴請求は、被告らに対し各自(不真正連帯で)原告会社に金五四、九九二円、原告桟敷に金七六、八七三円および右各金員に対する訴状送達の日の翌日であること記録上明らかな被告玄および被告国については昭和三五年四月七日から、被告金については同年七月二五日から、それぞれ完済まで年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるから、それを認容し、その余の請求は失当であるから棄却することとし、民訴法、九二条、九三条、一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 高橋欣一)

〈以下省略〉

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